福島第一原発の事故を描いたネットフリックスのテレビドラマ『THE DAYS』を観た。この事故に強い関心をもって取材してきた一人のジャーナリストとして、『THE DAYS』について書き留めておきたいことがある。
原子炉建屋内の暗闇のなか取っ手を回して弁を開けようと全面マスク姿の所員が苦闘する場面が『THE DAYS』には繰り返し出てくる。特定の登場人物をヒーロー視して持ち上げたり、悪役におとしめたりするのをあえて避け、物語としての面白さを犠牲にしてでも、ストイックなまでに事実関係に忠実に描こうとする制作者の姿勢を前面に押し出している。毎回の冒頭、「事実に基づく物語」との文字を画面に浮かび上がらせて強調しており、迫真性あるリアルな描写に、視聴者はこの物語をそのまま事実と受け止めるだろう。
「がっかりするほど洞察に欠け、事実に執着」との評も
6月1日に全世界で封切られた。英紙ガーディアンのウェブサイトに載った評には、「がっかりするほど洞察に欠ける。事実に執着し、人物像もストーリーもないがしろにしている」との前文が添えられている。評者は「THE DAYSを批判するのは不道徳の極みだと感じさせられる」ものの、「視聴者は飽きて、途中で見るのをやめる結果になるだろう」と予言し、「細かいディテールはいいから、ポイントを言え」との言葉でレビューを締めくくっている(Jack Seale、2023年6月1日、「The Days review – this nuclear disaster drama is no Chernobyl」)。
このように、面白さや芸術性、洞察には欠けるものの、事実に執着しているとの評価を得ているからこそ、筆者は、この作品が描く内容に、これでいいのかな、と引っかかる。事実に忠実であるのではなく、事実と異なる、しかも、あの事故の発生や拡大の原因に直結する重要な経緯について、実際の事実と異なるシーンが『THE DAYS』には複数あるのだ。
事故原因となった「防護扉あけっぱなし」がなかったことに
2011年3月11日午後3時36分、福島第一原発に津波が来襲したとき、海に面する1号機タービン建屋の大物搬入口の防護扉は開け放たれていた。事故発生5年あまりを経た2016年夏、東京電力は、柏崎刈羽原発の地元、新潟県が設けた福島事故検証の場でそう明らかにしている。
開け放たれた防護扉が原因となって、2号機、3号機よりも早く、より多くの海水が1号機の建屋内に侵入した。大物搬入口の内側から1号機コントロール建屋の制御中枢まで海水の侵入を遮る壁はなく、その結果として、1号機は他の号機よりも早く全電源喪失に陥り、3号機より1日半早く、そして2号機より3日早く炉心溶融に至った。
1号機大物搬入口の防護扉あけっぱなしが史実であり、これが福島第一原発事故の発生原因である。
ところが、『THE DAYS』では、津波来襲直前、この防護扉は閉じていたかのように描かれている。
事故の発生や拡大の要因と直結すると思われる経緯について、事実と異なる描写でいいのだろうか、と私は違和感を抱かざるをえない。そして、そうしたシーンはこれだけではない。
詳しくは、スローニュースで2023年7月26日正午に公開された以下の拙稿で。
前半「福島原発事故を描いたNetflix『THE DAYS』盛り込まれなかった最新スクープの“事故原因”とは」 https://slownews.com/n/nc4a1dc631a6c
後半「Netflix『THE DAYS』原発事故の重厚なドラマの中で隠れてしまった「真因」とは」 https://slownews.com/n/n4e2098ffc9b2