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  • 番留 千尋

福島除染土の新宿御苑搬入計画「1年ほったらかし」 で新宿区は「予定ないと認識」

環境省は計画の撤回を否定、「説明会開催のタイミングを検討」


 福島第一原発の事故に伴って発生した「除去土壌」を都心部の新宿御苑(東京都新宿区)に持ち込もうという「実証事業」の計画が2022年12月に環境省から公表されて1年たった。この間、「反対する会」が立ち上がって勉強会などの活動を積み重ねる一方、環境省は、わずか28人しか参加しなかった公表直後の最初の1回の説明会を除けば、この1年、近隣住民や区民に対する説明会を開かなかった。今後の予定も公表されていない。新宿区議会議長いわく「ほったらかし」の状況はいつまで続くのか。環境省の担当官は「説明会開催のタイミングを検討していきたい」と話すが、区の担当幹部は「実証事業を新宿御苑で行う予定がないという認識」に至ったという。 



勉強会で意見を交換する参加者たち=11月11日、東京都新宿区大久保3丁目の新宿コズミックセンターで、阪本祐理子撮影
勉強会で意見を交換する参加者たち=2023年11月11日、東京都新宿区大久保3丁目の新宿コズミックセンターで、阪本祐理子撮影

 「住民の声を反映する、開かれた議論の場を」   


 2023年11月11日、新宿区にある多目的施設・新宿コズミックセンターで「新宿御苑への放射能汚染土持ち込みに反対する会」主催の勉強会が開かれた。70〜80歳代とみられる高齢者を中心に、集まったのは50人余。福島県に住む和田央子さん、福島第一原発周辺に設けられた中間貯蔵施設の地権者として国とやりとりを重ねてきた門馬好春さんを招き、国の対応について議論を深めた。参加者からは、「私たちの声が届くかはいよいよ正念場の時期かもしれない」などの声が聞かれた。


 区議会での区執行部の答弁によれば、そもそも、新宿御苑に除染土を持ち込む実証事業の話が区役所に伝えられたのは、2022年7月のことだった。


新宿区役所
新宿区役所

 区の村上道明・環境清掃部長は、2023年2月22日に開かれた区議会定例会本会議で、次のように経緯を説明した。


 「7月23日に国から、新宿御苑を含めた環境省が管理する施設で実証事業の実施を検討していることが伝えられました。10月下旬には、新宿御苑で実証事業を行う場合には、花壇の整備などを検討しているとの説明を受けました。11月18日に国から、新宿御苑と関東地方にある2つの施設で事業を行う旨、正式に連絡を受けました。その際、12月下旬に説明会を開くことを前提として、12月初旬に事業実施を公表するということも伝えられました。その後、12月6日に、新宿御苑での事業実施を12月9日に公表する旨の通知を受けたことから、12月7日に区議会議員全員にお知らせをしたところです。また、区民の方への情報提供として、12月21日に開催された説明会で用いられた資料を掲示している環境省のホームページのリンクを令和5年1月16日に区のホームページに掲出いたしました」   

  

 その資料によれば、除染作業によって福島県内の庭先や農地からはぎ取ってきた表土のうち8000Bq /kg以下の「除去土壌」を新宿御苑の一角に敷設し、厚さ50cmの土をかぶせて飛散・流出の防止を図り、花壇にするという。すでに福島県内の実証事業で安全性を確認し、東京・霞が関の環境省が入る合同庁舎入り口のプランターや大臣室の鉢植えにも用いているという。今後の日程は未定とされている。 


 この「説明会」ののち、事業を知った地元住民や区議会議員らにより、2023年1月に有志団体「放射能汚染土持ち込みに反対する会」が発足した。当時の東京新聞の報道によれば、同月24日の発足集会には約150人が集まったという。世話人を務める平井玄氏の話によると、「この会の中で12月21日の第1回説明会に参加できた人たちから話を聞いたけれど、環境省は用意された資料の内容以外のことにはしっかりとした回答がなかった」という。平井氏は、形だけの説明会だったのではないかと疑問視する。

 2023年2月22日に開かれた区議会本会議で、「反対する会」のメンバーでもある高月真名区議は安全性への疑問に触れた上で、「この事業に関して多くの区民が指摘していることは、住民や来園者、事業者など関係者への周知、説明があまりにも不十分過ぎる」と訴えた。これを受け、区の村上環境清掃部長は「既に国に対して、除去土壌の安全性について丁寧で分かりやすい説明を継続的に行うよう、要請しているところです。今後も、区に寄せられた意見などを国に伝え、疑問にお答えすることなど、国に対して適切な情報開示も求めてまいります」と答弁し、前向きな姿勢を見せた。


 3月3日に開かれた区議会の予算特別委員会でも、実証事業についての説明の不足を指摘する声が上がった。 河野達男区議は、「そもそも説明会があった以降、環境省に対して新宿区として何か申入れやあるいは働きかけはしていますか」と質問。これに対し、区の小野川哲史・環境対策課長は、「今後も説明会、説明を継続するようにということを申し入れております」と答弁。「その際には、丁寧で分かりやすい御説明をしてほしいということを強く申し入れているところでございます」と付け加えた。河野区議が続けて、住民に提供された資料のわかりにくさ、説明の対象範囲の狭さについて指摘するも、小野川環境対策課長は「環境省は今後も説明は続けていく、説明をする範囲についてもいろいろと考えていく」と答弁するのにとどまった。


 これらのやり取りを踏まえ、吉住健一区長は次のように締めくくった。


 「とにかく住民に対して説明責任を果たしながら進めていただければという。進めていただければというのは、そういった説明の手順を進めていくということであって、すぐに除去土壌を持ってきてくださいとかそういうことではないと。とにかく安全であるというんだったら、安全であるということを証明してくださいというのが基本的な立場です」   


 新宿御苑に除染土を持ち込む実証事業計画はどう進んでいくのか。国会でも議論に上がることになった。  


 4月27日に開かれた衆議院の東日本大震災復興特別委員会で、小熊慎司委員(立憲民主、福島4区選出)は、「地域住民の理解が必要だということを政府も言っていますけれども、地元同意のプロセスを今後どうやって踏んでいくのか、住民理解をどう進めるのか、まずお聞きいたします」と質問した。これに対し、環境省の柳本顕大臣政務官は「環境省としては、これまでいただいた御意見、御質問に対して引き続き丁寧にお答えしていくほか、追加の説明会や広く丁寧に周知する方法についても地元自治体と相談しながら検討していきたいと考えております」と答弁した。住民の同意がなくても実証事業を進めるつもりなのかとの質問に、柳本政務官は「繰り返しになりますが、住民への説明を尽くしていく中で環境省として判断してまいります」と同じ答弁を反復するにとどまった。


 6月15日の区議会環境建設委員会で、樋山真一区議が、区民から提出された実証事業をめぐる陳情について区の執行部に問うた。   

 小野川哲史・環境対策課長は次のように答えた。  


 「町会などの規模の比較的やり取りのしやすい規模の説明会、特に、まずこの事業が行われる近傍での説明会を国に対して開催を求めております。それから、さらにこれまでも予算特別委員会等で御要望のあった、広く参加できるような説明会を開く、または、説明会に来られないような方に対しては、実際にそこで行われる事業の内容や安全性等についてしっかりと理解が深まるような資料等を作って公開していくことを国に求めているところでございます」  


 この間、「新宿御苑への放射能汚染土持ち込みに反対する会」は勉強会だけでなく、世論にアピールしようとデモも行ってきている。6月4日にはJR新宿駅前のアルタ前から新宿御苑近くを経由し、新宿公園まで練り歩いてデモした。

デモの最終目的地で集会をする「新宿御苑への放射能汚染土持ち込みに反対する会」=6月4日、東京都新宿区新宿2丁目の新宿公園で、藍原萌木撮影
デモの最終目的地で集会をする「新宿御苑への放射能汚染土持ち込みに反対する会」=2022年6月4日、東京都新宿区新宿2丁目の新宿公園で、藍原萌木撮影

 ベビーカーで娘を連れて親子で参加した夫婦によれば、近所に住んでいて、新宿御苑は幼稚園のお散歩コースにもなっている。「いくら安全だと言われても子供への影響は本当にないのかとても心配だ。いろんな人が参加できる説明会もなかったので、周りのママ友でこの問題を知っている人はあまりいない」と不安を口にした。


 新宿御苑の緑が豊かに生い茂る夏が過ぎた。それでも環境省は2度目の説明会を開こうとする素振りさえ見せなかった。  10月2日に開かれた区議会決算特別委員会で、杉山直子区議が環境省の検討が進んでいるかを確認する質問をした。「その後、環境省のほうで、また説明会のことが少し進んだとか、そういったような情報は今のところ、何か聞いていらっしゃいますか」   

 区の小野川哲史・環境対策課長は答えた。「今後の説明会でございますが、説明会については、現在のところは未定というようなところで聞いているところでございます」  


 同月11日の区議会環境建設委員会で、区議会議長でもある樋山真一区議は執行部に次のように迫った。  


 「今回の実証事業についての公開説明会の開催を国に求めるということでございますが、先ほど杉山委員がおっしゃいました、この間、9か月、ほったらかしになっていると、今こそ議会が後押しするべきだというような発言がございましたが、私もまさにそのとおりだと思います。環境省では、国会答弁に、ここに書かれておりますが、丁寧に説明を尽くす、地元の理解を得ずにやることはないと表明してきたというふうに記載されておりますが、まさに丁寧に説明を尽くしていないのが現状じゃないかと。まさに区民の皆さんの御不安は募るばかりだというふうなところは認識しているところでございます」  


 この日の区議会環境建設委員会で、2022年12月21日に地元住民を対象に開かれた最初・唯一の環境省の説明会について、区の小野川哲史・環境対策課長は、「それをもってして了解が得られたなどと環境省が言うことは、私としては絶対に受け入れられないです」と言いきった。  「12月21日が終わった時点で、非常にたくさんの方から、あの1回の説明で終わらせるのか、また、あの内容が必ずしも分かりやすいものではないという御意見をいただいて、それを申し伝えてまいりましたし、次の説明会はどうするんだという前提で定例会前後の対話をさせてきていただいておりますので、次の説明会はやるという認識で私はおりますし、国もそういう認識だというふうに受け止めております」  

   

 この12月21日、最初の説明会が行われてから、1年が経った。いまだに、多くの住民が参加する説明会の開催はない。    

 

 翌22日、新宿区役所の小野田哲史・環境対策課長は取材に対し、「環境省から新たな方針が発表された。2025年度に基準を完成させ、それに基づき2026年度以降に実証事業を行っていくことになった。この新たな方針と示された資料の中には実証事業の予定地に新宿御苑という名前はない。これを踏まえて新宿区役所の見解として、新宿御苑で行う予定がないという認識でいる」とコメントした。 

 

 一方、環境省 環境再生・資源循環局の担当官は取材に対し、「IAEAの専門家会合の状況や再生利用の基準・ガイドラインの作成を踏まえながら引き続き検討したい」と言う。時期などについては「まだ未定の状態だ」と答えた。新宿御苑での「実証計画」の予定を撤回したわけではないという。


 新宿御苑での「実証事業」計画は揺れている。


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