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  • 木下晴、奥山俊宏

オリンパス現地法人が契約した中国コンサル 会長が共産党幹部への長年の贈賄で有罪

 日本の精密機器メーカー、オリンパスの中国広東省深圳市現地法人であるOSZ(Olympus Shenzhen Industrial Ltd.)が、地元の行政当局とのトラブルを解決するため2014年にコンサルタント業務を委託した企業グループの総師・陳族遠氏が、広東省常務委員だった共産党幹部・万庆良氏の側に贈賄したとして2018年までに一審で懲役4年の有罪判決を受けていた[1]。広州の地元メディア『南方都市報』などの報道によると、陳氏は2014年6月に広州検察院で罪を認めたという。コンサル契約をめぐって贈賄への加担になるのではないかと、オリンパスの株主が、現旧の取締役や監査役らを相手どって代表訴訟を東京地裁に起こしており、7月10日、歴代の会長、社長らオリンパス取締役経験者4人の被告本人尋問がおこなわれた。「Atta!」取材班はこの経緯を取材し、そのルポ原稿が2024年7月、毎日新聞出版の「週刊エコノミストOnline」に連載された。

 

 

 安遠を使ってきたオリンパス

 東京のオリンパス本社が2015年に外部の法律事務所に依頼し、安遠グループとの取引のいきさつをまとめた調査報告書によると、オリンパス中国現地法人のOSZは2011年、消防局から指摘された施設不備などの問題を、公安から紹介された安遠を使って処理し、2013年には、帳簿上の在庫と実際の在庫に巨額の差異がある問題で税関当局との交渉をまとめるため、再び安遠を頼ることにした[2]


 同報告書によれば、2014年4月にOSZは、税関当局に支払う罰金を3千万人民元以下に抑えることができたら、実際の罰金との差額の8割を報酬として支払い[3]、罰金をゼロに抑えることができた際には2400万人民元(約4億5000万円)を支払う[4]、という契約を安遠グループの関連会社・安平泰と結んだ[5]。締結に際して、アジア等地域統括法人OCAPの幹部らから、米国のFCPA(海外腐敗行為防止法)や贈賄などの法令に抵触する危険性を指摘する声が上がったが、同年12月、結果的に罰金をゼロに抑えた安平泰に報酬の2400万人民元が支払われた[6]

 

 「贈賄王」との揶揄も

 中国政府がその公式サイトに転載している共産党機関紙・人民日報の記事によれば、安遠の陳氏は、過去に雲南省交通部副部長だった胡星氏へも賄賂を贈ったことがあり[7]、2008年には、複数の中国メディアがその贈賄疑惑について報じていた[8]


 オリンパスの調査報告書によると、オリンパス社内では、安平泰との契約前である2014年1月にこの贈賄疑惑の報道記事が共有され、「安遠グループが反社チェック疑惑にひっかかった」とのメールが交わされた[9]


 OSZと安平泰の契約が結ばれて間もない2014年6月、安遠の陳氏は別の贈賄事件の捜査対象となった。


 中国メディアの羊城晩報の報道によると、陳氏は、2014年6月13日、紀律検査委員会から電話を受けて出頭し、その2日後に広東省常務委員の万氏への贈賄の事実を認めたという[10]。別の報道によると、2014年12月4日、陳氏は安遠グループの法定代理人・会長の座、および安遠グループの47%の株式を別の人物に譲渡したという[11]


 現地メディアの報道によれば、陳氏は企業贈賄の罪に問われ、一審で懲役4年の有罪判決を受けた。判決では以下の事実が認定されたという。ひとつは、陳氏が万氏の「摆平(中央指導部による組織調査の回避)」を助けるため、2013年11月から2014年の5月にかけて約5000万人民元の賄賂を関係者に贈ったこと[12][13]。そしてもうひとつは、陳氏が2004年から2014年までの約10年間、会社の不正な利益を追求するために、万氏から職務上の便宜を受け、旧市街改造プロジェクトなどに参加させてもらったこと[14]


 羊城晩報の報道によると、陳氏は懲役4年の一審判決について「重すぎる」として控訴した。控訴審で検察側は「万庆良氏に贈賄した金額は非常に巨大であり、自首が認められたとしても減刑はできない」として懲役4年の維持を主張した[15]。控訴審判決については、報道は見当たらず、中国の裁判所の判決データベースでも確認できない。


 収賄側の万氏については、2014年7月の時点で中国の政府系メディア人民網で拘束が報じられており、この記事は、万氏が掲陽市幹部だったころのプロジェクト「30億工程」に、陳氏から多額の金銭援助を受けていたことに言及している[16]。万氏の公判に関する報道によれば、万氏は2014年10月17日に逮捕され、その地位の利便性を利用して、直接または特定の関係者を通じて、陳氏から5千万人民元を不法に受領したなどの罪に問われた[17]中国最高人民検察院のウェブサイトに掲載された記事によれば、万氏は2016年9月30日、無期懲役、終身政治権剥奪、全財産没収の有罪判決を言い渡された[18]


 時系列を整理してみると、陳氏側から万氏への贈賄があったとされる期間は、消防施設の不備の問題について消防局(公安)との交渉の解決を安遠に依頼した2011年ごろから、税関問題に関して安遠に解決を依頼した2014年4月までの期間と重なっている。OSZが報酬を安遠側に支払った2014年12月は、陳氏や万氏が逮捕されて間もない時期だったことになる。


 中国メディアに「行贿状元(贈賄の王)」と揶揄される陳氏が、2014年6月まで贈賄の罪で刑事責任を追及されることがなかった背景として、広州鉄道運輸法院のウェブサイトに掲載されている記事によると、関係当局が、収賄側を起訴・処罰するための陳述や証拠を贈賄側の減刑などと引き換えに得る「特別自首制度」が挙げられるという。当時の統計データには、「贈賄は収賄の5パーセント未満しか司法手続きに移行されない」ことが示されており[19]中国政府も「長い間、司法の実務では『収賄よりも贈賄を軽視する』傾向が存在する」などと問題視していた[20]。実際に2007年8月、陳族遠氏から3200万人民元の賄賂を受け取ったとされる元雲南省交通部副部長・胡星氏(前出)は、無期懲役と政治的権利の永久剥奪という判決を受けたが、当の陳氏は保釈され、起訴されなかった[21]


 贈賄したとの報道があるのに、2014年に贈賄の前科を確認できなかったのは、こうした事情が背景にあったからだとみられる。このように、「贈賄の前科がない」ということが必ずしも「贈賄したことがない」ということを意味するわけではなかった。

 

 東京地裁のオリンパス株主代表訴訟判決は12/10

 東京地裁で4年以上にわたって続いてきた株主代表訴訟は今、大詰めを迎えている。


東京地裁中目黒庁舎=2024年7月10日午後、東京都目黒区中目黒2丁目で、奥山撮影
東京地裁中目黒庁舎=2024年7月10日午後、東京都目黒区中目黒2丁目で、奥山撮影

 5月31日に東京地裁中目黒ビジネスコートの301号法廷で行われた証人尋問では、安平泰との取引・交渉に関してオリンパス本社とOSZの橋渡し役をした人物3人が出廷した。


 証言台に立った阿部和也氏と渡邉和弘氏は、2013年11月15日、安遠の起用について、当時本社の専務執行役員だった藤塚英明氏と竹内康雄氏に報告した。そこで課された「安遠を使うリスクヘッジについての検討」が具体的に何を示していると受けとったか尋ねられた証人は、一般的に中国でコンサルタントを起用することにおいて———という意味でそうした指示が出されたのであって、被告らがこと安遠に関して贈賄リスクを危惧していた、というような解釈はしなかったと供述した。OSZ董事だった渡邉氏は、安平泰による贈賄行為の可能性を「(自身では)認識していなかった」とした上で、菊川剛社長時代の会計不正の件もあったため「経営層から従業員まで」ガバナンスやコンプライアンスの問題に「神経を使っていた」と話した。


 7月10日には、オリンパスの取締役会長だった木本泰行氏、社長だった笹宏行氏、専務執行役員だった竹内康雄氏および藤塚英明氏の被告本人尋問が行われた。判決期日は12月10日と指定された。

 

 オリンパス広報室「コメントは控える」

 東京のオリンパス本社に、これらの事実関係を含めた調査結果を送りコメントを求めたところ、「係争中のためコメントは控える」「これまでも開示すべき内容については適時開示にて開示している。また今後開示する内容が新たに発生したら適時開示にて皆様へお伝えしていく」という回答はあったものの、詳しい説明はなかった。


[1] 南都记者 吴笋林、实习生 董晨曦、(2018年6月29日)「一商人为帮万庆良逃避组织调查,反被“关系人士”诈骗5000万」南方都市報。https://static.nfapp.southcn.com/content/201806/29/c1273302.html?fbclid=IwAR28JcS0_6ssGcIee7jmCaLRRRbF3GLkrNTN9JsXgqsv2gLRanYWt6xo6AQ 

[2] シャーマンアンドスターリング外国法事務弁護士事務所 弁護士 池田祐久ら(2015年10月29日)、オリンパス株式会社S調査委員会あて最終報告書17ページ。https://facta.co.jp/article/images/201607/olympus.pdf#page=17 

[3] 前掲池田ら、オリンパス株式会社S調査委員会最終報告書49ページ。https://facta.co.jp/article/images/201607/olympus.pdf#page=49

[4] 前掲池田ら、オリンパス株式会社S調査委員会最終報告書24ページ。https://facta.co.jp/article/images/201607/olympus.pdf#page=24  

[5] 前掲池田ら、オリンパス株式会社S調査委員会最終報告書22ページ。https://facta.co.jp/article/images/201607/olympus.pdf#page=22 

[6] 前掲池田ら、オリンパス株式会社S調査委員会最終報告書22, 24ページ。https://facta.co.jp/article/images/201607/olympus.pdf#page=24

[7] 刘笑迪責任編集(2014年5月16日)、中央政府门户网站、「人民日报时评:行贿“零容忍”,制度更过硬」。https://www.gov.cn/xinwen/2014-05/16/content_2680484.htm 

[8] 魏恒編集(2008年1月28日)「媒体质疑胡星案:"行贿状元"未被公诉理由何在?」中国新聞網(来源:新京报)https://www.chinanews.com.cn/sh/news/2008/01-28/1147251.shtml など

[9] 前掲池田ら、オリンパス株式会社S調査委員会最終報告書22ページ。

[10] 董柳、责任编辑:卫佳铭(2018年6月29日)「花五千万帮万庆良逃避调查却遇骗子,粤商陈族远不服判决上诉」、羊城晩報。https://gd.ifeng.com/a/20180629/6691719_0.shtml、https://m.thepaper.cn/newsDetail_forward_2227060

[11] 法治周末记者王阳(2016年8月31日)「行贿状元陈族远:万庆良1.1亿受贿款他贡献近一半」捜狐新聞(法治周末)。http://news.sohu.com/20160831/n466987410.shtml?fbclid=IwAR1ZOF740AoU5GT01HkYZ6cmXusXW85zCeAsOlNRua8MiSOx52RAuv9GtmI 

[12] 吴ら前掲記事。

[13] 董前掲記事

[14] 吴ら前掲記事。

[15] 董前掲記事。

[16] 新京報記者 周清樹、実習生 孫貝貝(2014年7月14日)「万庆良被调查或因工程中与商人利益交换」新京報。http://politics.people.com.cn/n/2014/0714/c1001-25275570.html 

[17] 田宏编辑 王敬东责任编辑(2015年12月25日)「万庆良被控受贿1.1亿 单项受贿高达5000万 当庭痛哭」中国新闻、新华网。https://news.cntv.cn/2015/12/25/ARTI1451023812886248.shtml

[18] 骆娜責任編集(2016年10月8日)「广州市委原书记万庆良一审被判无期徒刑」中華人民共和国最高人民検察院ウェブサイト。https://www.spp.gov.cn/zdgz/201610/t20161008_168790.shtml 

[19] 作者:何珺   信息来源:本站(2016年3月17日)「宽容的理性——以特别自首制度为中心的追问与重塑」、广州铁路运输法院。http://www.gtyy.gov.cn/courtweb/web/content/130-?lmdm=1008 

[20] 刘笑迪責任編集、来源: 人民日报(2014年5月16日)「人民日报时评:行贿“零容忍”,制度更过硬」。https://www.gov.cn/govweb/xinwen/2014-05/16/content_2680484.htm 

[21] 何前掲記事。

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